2学年の秋に起きた、音楽の授業前のできごとです。
この教科の教師は授業時間になっても5分、ひどい時には10分程遅れて教室にくるような人だったので、
クラスメートにとってこの時間帯は格好の休み時間となっていました。この日も誰もが思い思いに過ごしていて、
私の席は、友達グループで会話している他の女子に陣取られていました。
音楽と久しぶりの再会
親友と呼びあえるようなクラスメートが特にいなかった私は手持ち無沙汰になりました。
あまり人の集まっていない教壇近くを行き来し、それでもやることがなくてグランドピアノの前に腰掛けました。
合唱コンクールを数週間前後に控えていることから、軽い気持ちで学年の課題曲を弾いてみることにしたのです。
歌の練習に使用するので楽譜は手元にありますが、実際に指で奏でるのは初めてでした。
ピアノを弾くのは実に数年ぶりのことで、最初はたどたどしく、しかし次第に調子を思いだして
奏でることができました。
あの時のクラスメート達の驚愕した顔は忘れられません。
「地味なあの子が流暢にピアノを演奏している」。
演奏にひと息つき、ふと周囲に目をやると皆そう言わんばかりに目を剥いていたのです。
隠していたつもりではないけど…
私のクラスの伴奏担当は、他の女子でした。
私もピアノは弾けますし、別にこれまで隠すつもりもありませんでした。
ただ合唱曲の指揮者や伴奏の担当者を決める際に、リーダーシップがあり常に注目を浴びている彼女が
挙手していたので、自分は手を上げるのを控えたのです。
私はたちまち周囲を女子たちに囲まれて身動きが取れなくなりました。
学校では極力目立たないようにしていたのに、まさかこのような形で注目を浴びるとは
思っていなかったので、クラスメートからの質問攻めに俯いてしまったものです。
それ以降も同級生から一目は置かれるようになったものの、特別な目で見られるのが申し訳なくて
消えてしまいたくなることが何度もありました。
当時の私はすでにバンドを組んでいて、ライブハウスで演奏したことも何度かあります。
学校での控え目な自分と、バンド仲間といる時の明るい自分。
あまりの差に自分でも別人のように思っていましたが、このピアノの件で決定的になったのを感じました。
本当の自分とは何なのだろう。将来への不安と同時に、自己について深く考えるようになりました。