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  3. 夢破れて

子供の頃から歌が好きだった私は、漠然と将来は音楽の道に進もうと思っていました。
特に母が私に音楽を習わせたいと思っていたのか、物心ついた時からピアノを習っていたので、
将来音楽をやりたいと思うようになったのも自然な成り行きだったのかもしれません。
歌を歌うことも好きでしたし、ピアノも自分から率先して練習をしていました。
また、私の家にはグランドピアノもありましたので、環境的にも申し分なかったのです。
ピアノの発表会の時におめかしをしてピアノをみんなの前で弾くのも楽しかったです。

父も母も、音楽は好きだったので、私の家ではいつも何かしら音楽が流れていました。
クラッシックからジャズまで、いろいろなジャンルの音楽を私は湯水のように聴いて育ったのです。
音感が良いと褒められたこともありますし、絶対音感も持っていたので、音楽的な才能は
あったのではないかと自負しています。今ではもうすっかり音楽の才能はなくなってしまっているように
思えますが、当時の私は自分には音楽の才能があると漠然と信じていましたし、
周りの人たちからもそう言われていたので、自分に自信を持っていました。

父のお店が倒産

しかし、そんな私の夢があることをきっかけとして、早々に断ち切られてしまうのです。
父の洋食屋が倒産してしまったのです。
実は後からわかったことですが、そのだいぶ前から経営は苦しかったようです。
そのことは何となく私もわかっていましたが、父も母も私に余計な心配をかけたくない一心で、
相変わらずピアノ教室に通わせてくれましたし、私が欲しいといったものは何でも買ってくれました。

ところが、ある時、家に帰ったら、いつもは仕事に行っているはずの父が家にいて、
その時に初めて父のお店が閉店することになったという話を聞いたのです。
小学生の私は、そのことが一体何を意味するのかということは何となくわかりました。
恐らくうちは貧乏になるだろうという気もしていました。
しかし、こころのどこかで、まだ自分の音楽に対する夢は何とか叶えることができるのではないかと
期待する気持ちもありました。

通えなくなってしまいました

ところが、次の月からピアノ教室に通うことができなくなり、その時に初めて、私は音楽への夢が
破れたことに気づいたのです。
しばらく私は呆然としていました。
これから私は何を生き甲斐にして生きれば良いのだろうと、子供ながらに心配したのです。
それほどまでに私は音楽と共に生きることを夢見ていました。