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  3. 仲の良かった友だち

庭で開かれるホームパーティーには、本当に様々な人が来ました。
年齢も国籍も幅広く、一度しか会うことのない人がいれば、毎月のように顔を見せる人も。
お客様の中には自分の子どもを連れてくる人もいて、私はその子たちともすぐ友だちになりました。

外国人の男の子の話

ある時、外国人のお客様の中に、母親のスカートにずっとしがみ付いている男の子がいました。
大きな目と日焼けしたように健康的な肌が印象的な少年です。
今となってはうろ覚えですが、南米系やアジア系の容姿だったような気がします。
自分とそう歳は変わらないように見えるその子に、私は進んで挨拶をしました。けれども男の子は
もじもじしたまま返事をしてくれません。どうやらその男の子の母国語は英語ではないようでした。
当時の私に外国語の聴き分けなんてできませんでしたが、母親の話す言葉から雰囲気からそう察したのです。
何にせよ、片言の英語しか話せない私には、男の子と言葉を交わす手段がありません。
それでもしばらく接していると、私たちはすぐに打ち解けることができました。
子どもにとって、言語の壁は大して問題ではないのです。

他にも何人かの日本人や外国人の友だちができ、大人たちが談笑している間はみんなで集まって遊びました。
意外なことに、日本でおなじみの遊びというのはアメリカやヨーロッパでも共通しているものが
いくつもあります。もしルールを知らない子がいても、身振り手振りで説明することで通じました。
鬼ごっこや目隠し鬼、なわとび、だるまさんが転んだなど様々な遊びをしましたが、
特に私が熱中した遊びは木登りでした。

例の恥ずかしがり屋の男の子も、ひとたび打ち解けるととても活発になりました。
彼は木登りが得意だったようです。みんなでわいわい騒いでいる時にも、
「二人きりで登ろう」とでも言いたいのでしょうか、手を引かれてよく誘われたものです。
一度庭の木に登ろうとしたら大人に怒られてしまったので、
家のすぐ近くの公園に出掛け、そこで好きなだけ木に登りました。
最初は彼と私だけで公園に向かい、それがまもなく他の友だちもやってきて、みんなで木登りをするように。
競争をすると、一位を取るのは決まって例の男の子でした。

木の上の見晴らしは別格だった

私は男の子たちが昇り降りするのを眺めているだけでしたが、みんながとても楽しそうなので、
自分も初めて木登りに挑戦してみました。
手先は器用でも身体が固く非力だったので、最初の枝にしがみつくのさえ大仕事でした。
そこでまず先に男の子が枝に上り、幹にしがみ付いたまま動けない私を引っ張り上げてくれました。
枝の上はとても見晴らしがよく、まるで空を飛んでいるようで気持ちよかったのを覚えています。

しかし降りる番となると問題が起きました。怖くて降りられないのです。
足をどこにひっかけようかと下を見ようとするとバランスが崩れ、あやうく頭から転落しそうになります。
男の子が手を貸してくれても身体がすくみ、幹から身を離すことができません。
結局、大泣きしているところに大人が駆け付け、しっかり抱きとめてもらうことで降りられました。

何であの男の子はあんなに身軽によじ登れるのだろう。彼にできて自分にできないのが悔しくて、
私は近所の友だちを誘い毎日のように木登りに挑戦しました。
冬の寒い日によじ登ると、指が擦り剥けてかじかみヒリヒリしみて、翌日のピアノのお稽古に
支障が出ることも幾度もありました。

そしてやっと恐怖を感じずに上り下りできるようになった頃、例の男の子の姿を見ることは
なくなってしまいました。親の取引先が移ったのでしょうか。
パーティーの度に仲良く遊んでいたのに、今ではどうしても名前を思い出すことができません。