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  3. 居場所のなかった受験シーズン

ほとんど成り行きから就職活動の道を選んだものの、特にこれといってやりたい仕事が
あるわけではありませんでした。当時続けていたファミリーレストランのバイトは正直飽きていましたし、
コネを通して社員になろうとも思っていなかったのです。

もちろん、音楽関係の仕事の道も考えました。ウェイトレスのバイト経験から
接客にはそれなりに自信があったので、アーティストとしての活動はともかく、
楽器専門店の店員なら自分でもなれるかもしれないと夢見ていたのです。
けれども楽器の専門店で働くとなると、趣味レベルではなく幅広い知識が必要になります。
あくまで自己表現の手段としてしか音楽と接してこなかった私には
「さあプロになるための勉強を始めよう」という気持ちにはどうにもなれませんでした。

全く未来が決まりません

やりたいものが見つからないまま、学生生活は淡々とすぎていきました。
転機が訪れたのは3学年の夏ごろでしょうか。特に仲のいい友だちがいるわけでもなかった私は、
手持ち無沙汰になるといつも本を読んで時間をつぶしていました。それが本格的に受験のシーズンに入ると、
授業中以外で自分の机に留まっていることができなくなってしまいました。
周囲を見回して目にはいるのは、真剣な面持ちで単語カードをめくる男子や、
友だち同士で問題集の答えあわせをする女子。見なれた光景ですが、空気がまるで変わったのです。

連休や学校行事がせまるたびに、「気をゆるめるな」「体調管理をおこるな」と教師は教壇に立って
よびかけていました。それらは受験生や、まじめに就職活動をしているクラスメートにむけた言葉です。
進路について、特にこれといった予定を抱えているわけでもなかった私は、それこそ悠長に構えていました。

実は引け目を感じていました

他人事だと思うのと同時に、引け目を感じていたのも事実です。
受験生のクラスメートが毎朝早くから教室で赤本を開いているのをみては、いたたまれない気持ちになりました。
学生というのは、勉強ができるかどうかで他人をランク付けしたがるものですから。
同年代なのに賢さの差をこれ見よがしに見せつけられているようで、とても肩身の狭い思いをしていました。

真剣な面持ちのクラスメートを視界にいれながら、のんきに趣味の本をたしなむ度胸など
私にはありませんでした。きりきりと空気のはりつめた教室は居心地が悪く、
いつしか昼休みになると図書室ですごすようになります。
こうしてただでさえ控えめの私は、更にクラスの中で影が薄くなりました。